タカエおばちゃんによれば、季節が過ぎても、世間は胤森家に情け容赦なかったそうだ。次の2年間は、父の真実と道徳的な価値観が徹底的に試された。父は無口な人だったため、自分で自分を追いやり、殻に閉じこもった。村人たちが人生に迷った時に拝みに行くお地蔵さんにもお願いしに行った。父はごく普通の人間だと見なされ、天照大神の栄光は消された。軽蔑と非難がいつもつきまとっていた。母も、貝のように無口になった。母は産みの苦しみに耐えてきたが、村人からじろじろ見られることは、それと比較にならないほどの苦痛であり、魂をも引き裂かれるほどだった。


母が4人目の子供を妊娠したことを、父が両親に伝える前に、なぜか村人たちは知っていた。彼らは、仏陀が男の子を授けないのは人生の何かがひどく間違っているに違いないと、厳しく非難した。彼らの皮肉な目は、不運が胤森家にまた降りかかるだろうと期待していた。その皮肉な笑い声は、村中に響き渡った。父が両親に次の子供に期待していると話した時、彼らは後継ぎを産めないこの結婚を無効にして、母を遠くへ追いやるように父に説得していた。


タカエおばちゃんはつらそうに私に話した。私には全く理解できないことだった。
「私たちは、これ以上世間の恥に耐えることはできない。二度とおまえが見世物にならないように胤森家から出て行ってほしいだけだ。息子が家に戻る前に、娘たちを連れて出て行きなさい。」
祖父母は母に対して、すべての恥の根源は父の種ではなく、母の無益な子宮だと話した。農民は畑に最高品質の種をまくことが出来るが、畑が肥沃でなかったら何も芽が出ないと。
「今夜、暗闇にまぎれて家を出て行きなさい。お金が必要なら準備する。貞夫が寝た後、一番下の子を連れて出て行きなさい。静かに出て行けるように鍵を開けておくから。これが一番いい方法なのだ。」
仕事から戻った父は、泣いている母を見つけた。長女の万寿代は、祖父母が訪ねてきたことを父に伝えた。母はただ黙って頭を垂れた。


タカエおばちゃんは、遠くの方に目をやった。私の頭は疑惑でいっぱいだった。


その2週間後、紅葉村の祖母トメから、予期しない手紙が父に届いた。それは、明らかに父の無力さを告発していた。その手紙は、敬称の一切ないものだった。
『貞夫へ
貞夫、男の子が生まれないのはお前自身の無能が原因なのに、恥の根源を私たちの家系の責任にしたというのはどういうことだ。不完全なのはお前の種なのに、私の娘はどのくらい長い間、世間から笑いものにされてきたことか。お前の種は、まるで乾いた種のようだ。後継ぎづくりに失敗したのはお前のせいではないか! お前は芯のないクラゲだ。罪の意識もなく、責任も取らないままに、どうしようとしていたのか。日本男児としての責任を取りなさい! 仏陀を呪うがいい。彼の耳にお前の言葉は届かない。彼の手が触れることはない。男の子とともに、お前を祝福することはない。お前は恥だ! 芳子の母親としての心からの願いだ。お前との結婚はなかったことにする。若葉が芽吹くように、娘の純潔を取り戻してやる。          
トメ』


印鑑とトメの大きな署名があった。貞夫は、まさかこのような手紙が来るとは夢にも思わなかった。父は、両親をはじめとする長老の権威を尊重していたが、正しい道に行くのが名誉だと感じた。3人の罪のない幼い子供たちと、忠誠な妻を守ることこそが正しい道ではないのか? 父は火鉢へと歩いていき、手紙を燃やして灰にした。胤森家との板ばさみに、答えはなかった。父は、村人たちの調査の目から逃れることはできなかった。父の名誉ある選択のみが、ある日、芳子が息子を産む希望を持って屈辱に耐えられると気づいた。