愉快なお祭りムードが私達の間に広がれば広がるほど、サムとジェフはおもしろくないという態度を見せた。サムはイライラして、彼の顔には不満が出ていた。
「タネモリ、早くしろ。さっさと仕事の話をするのだ。」
星崎社長が部長に合図をし、部長は細かく印刷された資料5枚を用意した。その資料には彼らの5年間の計画が書かれていた。私にとっては大胆な計画であり、松の盆栽を作るような長期的な計画に見えた。
「タネモリ、何をぐずぐずしているのだ。その5年計画とは一体何だ。もっと詳しく説明しろ。金儲けのビジネスをしていることだけは絶対に忘れるなよ。」
サムは厳しく念を押した。


しばらく時間が経ち、部長と社長は少し2人で話し合っていた。そして改めて社長自身が言われた。
「胤森君、時間はどれだけかかってもいいから、君の社長にはっきりと伝えてくれないか。私達の5ヵ年計画は、今日の話し合いを第一歩として、これから先雪だるまを作るように大きくなっていくことを望んでいると。それにはお互いの完全な信用が必要ですね。」


「星崎社長!」突然サムが口を開けた。
「タネモリの説明によると、何が何だかよくわからないが、どこまであなた方日本人を信じていいのか。5年の計画より、今夜の計画はあるのですか?」
山下部長が口を開いた。
「胤森さん、あなたの社長は私達の約束を破られましたね。話は胤森さんと私を通してすべて行うということではなかったでしょうか。なぜサム社長はそんな無礼なことをするのですか?」


それまでの雰囲気が180度変わり、まるで世界全体が突然止まったように見えた。
「サム社長の発言は、強引に自分の考えを押し通すという、横柄なアメリカのビジネススタイルだと私達が考えていた通りでした。彼の態度で、星崎社長の心を裏切ることは絶対に許せないことですが、社長は多分、今あなたの顔を立てることを心にしているのだと思いますよ。」
私の胃はミキサー車の中でセメントをこねるようにグルグル回っているようだった。山下部長の心の痛みは、私にはどうすることもできなかった。サムを非難しても、彼には自分の行動の何が悪いのか全くわかっていない。
「サム、あなたがどんな人物かは想像していましたが、今夜のあなたは私の中に日本人の血が流れていることに気づかせてくれましたね。」


サムはテーブルをドンと激しく叩いた。
「タネモリ、今夜彼らと過ごしたすべての時間とお金のためにも、やりがいのある契約を結ぶことなく帰るつもりはないと日本側に伝えろ。もし今夜、彼らが何も買うことなく退席したら、誰がこの飲食代を支払うんだ。」
「私がすべての支払いをしましょう、問題ありません!」
「胤森君!」社長が部長に目配せした。
「あなたが謙遜する必要は何もありません。既にサム社長が要求していることが何なのか分かっていますよ。胤森君、あなたに負担はかけませんよ。彼が私達とどうしたいのか、正確に話してください。それでいいですね、部長。」
社長はさらに部下の矢田部さんと黒川さんにも話しかけ、同意を求めていた。彼らはただうなずいた。


私はサムの要求を部長に伝えた。あまりにも恥ずかしくて、ただ下を向いて答えを待つしかなかった。再び社長は複雑な表情で黙り込み、その後十分な話し合いの末、合意に達した。私はナイアガラの滝から救出されたような思いだった。その決定は、私の顔を立てて、コンテナ1台分の商品(およそ35,000ドル)を買うというサムの無理な要求に同意する契約だった。


それらの契約に必要な書類を作るために翌朝早い時間に出勤した時、サムが廊下をゆっくり歩いていた。彼はまだ怒りを発散させながら、欲求不満を表していた。
「タネモリ、もう1度日本側と話し合い、5ヵ年計画を再提出することを頼んでくれないか。改めて考え直すと。」
私は開いた口がふさがらなかった。人の心を踏みにじってまで“富”を手に入れようとしたサムは、自分自身の昨夜の行動を何1つ理解していない愚かな人物あると。
「サム、あいにくあなたが考えているほど、世の中甘くありませんよ。最後にあなたに言っておきたいのは、昨夜の行動は自分で墓穴を掘ったということです。」


激しい嵐の中、私は父親の声を聞いたかのように決断した。1990年9月24日、私は辞職願を持ってサムに対面した。そして謝罪の心とともに、星崎社長に手紙を送った。