キリスト教徒たちの中では言うまでもなく、牧師たちの中にまでこのような偏見や差別といった耐え難いことが存在するのはどうしてなのだろうか。 
アメリカで牧師をするのが天職だと信じるのをいつになったらやめるの。いったいどんな恩恵を私達が得たというの? 実際に最後の牧師はあなたにこの町から立ち去れと言ったのよ!」
妻の私への憤りはもっともであり、私はそれを受け入れていた。そしてそのことが自分自身へのさらなる怒りへと膨らんでいった。
「私たちはこれからどうやって生きていくの? 神が子供達を食べさせてくれるっていうの?」という妻の言葉は、短剣のように私に突き刺さった。
「もちろん神はきっと用意してくれるよ・・・」
「父の言うことをきいておくべきだったわ。あなたは牧師の職からも追い出されたのよ。家族を支えていけるような高給がもらえる仕事を得られるほど、あなたには教育も技術もないじゃない。次にいつ皿いっぱいのスープがテーブルの上にのるか、あなたに何か考えはあるの? それでもあなたは男なの?」
おそらく彼女の父が私を拒絶したのは正しかった。彼は娘に、私と結婚しないようにと警告したのだ。それは私が日本人であるというだけでなく、家族を養うこともできない牧師だったからだ。


数ヶ月間私は憂鬱で深くふさぎこんでいた。すり切れた聖書以外、手に職のない私にいったい何ができるのだろう。予言者モーゼは手に杖を持っていて、それが蛇になったが、私は手に何の技術もなく、裸で放り出されているようなものだった。

 
生き残る道を絶望的に模索する中、連邦政府がある職に適する人を探しているという広告が地方紙に載っていた。私は筆記テストには全部合格した。そして最終の口頭での面接試験において、政府が求職者にはっきり明示してある資格とは、少数民族(マイノリティー)であることと、2ヶ国語が使いこなせるバイリンガルであるということだった。


2つの修士課程の学位を持っているので、筆記試験には全く何の苦労もなく合格した。役人の試験管が、十分に資格のある私に気をよくして言った。
「胤森さん、あなたの資格は十分です。2つも修士課程の学位をお持ちなんですね。」
彼女は微笑んだ。私の心はフツフツとあわ立ち、足は勝手に飛び跳ねそうだった。もうすぐ美味しい食事が食べられるかもしれない・・・ああ、何と素敵なことだろう。3人の子供達の待つテーブルに食事を用意できるなんて!


私は喜びを表に出さないよう抑えるのに必死だった。しかし最後の面接試験で拒絶された時、私は大混乱に陥り、怒りへと突き進んだ。
「胤森さん。」その女性は声を押し殺して言った。
「私達がバイリンガルという時、それは普通英語と日本語のことではなく、英語とスペイン語のことなのです。」
「ああ、そうですか。もしそうならどうして広告にそのようにはっきりと書かないのですか? もちろん私は英語を学んだようにスペイン語も喜んで学びますし、学ぶ能力もあります。ただ私に少しだけ時間を下さい。」


マイノリティーという点で私には確かに資格があると内心微笑んでいた。
「胤森さん。」と彼女は辺りを見回し、声を落として私の耳に言った。
「私たちがマイノリティーという時、それは日本人ではなく、黒人のことを指すのですよ。」
「何だって? もし黒人でスペイン語を話す人を探しているのなら、はっきりとそう広告に載せるべきではないのか。スペイン語を話す黒人を求めているのだと。」
私の荒れ狂った声は壁に撥ね返り、響き渡っていた。
「まあ、胤森さん。そんなことはできないのです。それでは差別だと言われてしまいますから・・・」
「何だって? お前たちはみんな・・・」
全身が不本意にも震えていた。何人かの役人たちが悪意に満ちた眼差しで私を見つめ、私の前に立ちはだかった。