信じられないことに、私の住んでいた地域は刑務所よりも自由の少ない場所だった。住人は、私の書斎の消灯時刻や起床時刻まで知っているようだった。街中を歩く時は、目隠しをされたロバのように、注意深く歩く必要があった。万が一見てはいけないものを見てしまったりしたら、人々は私の耳に入るまで、あることないことを噂するのだ。私はまるで、この地域のゴシップ記事の作者にでもなってしまったかのようだった。


やっと安息が訪れた。一体、誰が電話を鳴らし続けているのだろう。電話がひっきりなしに鳴っていた。それは、私が嵐に巻き込まれてしまったある火曜日のことだった。
「もしもし、タネモリ先生ですか?」
声の主は、私が応答したことに驚いた様子で、ためらいがちに話した。マウント・ザイオン教会のゴードン・スワンソン博士の秘書だと名乗るドロシー・ルンドクエスト夫人は、私に必死に謝った後、博士が次の木曜日の朝10時に教会の事務所で私に会いたがっていると告げた。博士は、私がその時間に先約がないかどうか確かめたかったのだと言う。
「ええと・・・それで、ご用件をお伺いしたいのですが。」
「タネモリ先生、博士は特に何もおっしゃいませんでしたが、ここだけの話、博士はあなたを担任牧師の1人としてお迎えしたいのだと思います。あなたがどんな方で、何をなさってきたのか、私達は皆分かっておりますから。」
「ほう、そうですか。」
「はい、あなたがターロック市に戻られてから、あなたのお仕事ぶりは拝見させて頂いておりました。私達は近くに住んでおりますので、何か起こったかすぐに分かるのです。」
「それでは、私が解雇されたのもご存知なのですか?」
「もちろんですとも! それで私どもの主任牧師であるスワンソン博士があなたにご連絡するよう申したのです。」


奇妙なことに状況が一転し、輝かしい夜明けの光とともに木曜日の朝がやってきた。鏡に向かって髭を剃りながら、私はなぜ彼に会おうとしているのか自分に問いかけた。彼らは特定の宗派に属さない教会の人間であり、私は忠実なバプテスト派の牧師である。彼らは私とは違う種類の人間ではないのか?


事務所に入っていくと、電話で話した秘書のドロシーの声が聞こえてきた。私の到着を今か今かと待ち構えていたらしい。私はその華やかな事務所に目を奪われた。それぞれの秘書の机の上には花が飾ってあり、まるで庭園から抜け出てきたようであった。


スワンソン博士は身長が185cm、体重が80kgはありそうな体格だった。会談中にはほとんど口を開かず、私の背筋に悪寒が走った。彼の体の動きや話しぶりは“ナメクジ”のようだった。暗闇の中を這いずり回り、形を自由に変えてどんな穴にも入り込めるヌルヌルとしたナメクジ・・・。


その会合は2時間に及んだ。主任牧師のゴードン・ファーガストン博士が主に質問を行った。彼の話を聞いていると、まるで自分がカメレオンのように皮膚の色を変化させて、特定宗派に属さない方針を認めているような気分になった。その後、教会の財務部長であるアーチボルト・コックス氏の話に移った。彼は他の教会では見たこともないようなある数字の書かれた書類を持っていた。そしてニコリともせず、給料や福利厚生、電話や教会の所有物の仕様について、その他雇用と解雇の条件について慎重に説明した。それは非常に好条件であり、私はその気になった。しかしそれはあくまでも金銭面でのことだった。


“特定宗派に属さない”という旗印の教会の下で、“バプテスト派の魂”を注ぎ込むのが私の義務だと感じていた。私の仕事は今まで以上に神に恵まれ、スワンソン博士の期待をはるかに上回った。平均475名だった日曜礼拝の参加者が、10ヶ月を過ぎる頃には625名に跳ね上がり、スワンソン博士は満足だった。新しく教会にやってくる人の多くは、すぐに経済的な支えとなってくれた。