2学期の生徒達の公式な成績となる中間試験の採点が出た。ビル・シーザーという高学年の生徒が教室に荒々しく入ってきて、私の前に立った。ちょうど昼時で、私は机にお弁当を広げて食べているところだった。
「胤森先生、僕の中間試験の成績がBというのはどういうことですか。僕にAを与えない教師は初めてです。」
彼は軽蔑的に言い放った。高校生活の3年と半年の間、彼は優秀な生徒として知られていた。また、私以外の先生は、誰も彼の完璧な記録と評判を壊すことはなかった。
「私にどうしてほしいのです? すべての教師がAを与えるとは限らないのですよ。そのことを理解しなくてはなりません。どんなにAを欲しがっている生徒でもです。」
「僕が特別に補習を受けたら、その代わりにAを下さい」
「おお、ビル 、あなたは私がこの2年間に教えようとしていたことを、まだ学んでいませんね。」
「胤森先生、あなたは私の両親が誰だか知らないのですね。」
「おやおや、あなたとあなたの両親は、私が誰だか知らないようですね。」
私は彼の顔を見た。
「ビル、あなたの採点を改善するにはまだ9週間あります。私はあなたがただ教えに従って学び、あなたの仕事をするのに何も問題はないと思っています。あなたの最初の誓約に忠実であることが重要です。まず生徒であることです。責任感があり、信頼できる生徒であることです。そして、自分の心に忠実であれば、他のすべての出来事も理解できるはずです。自分の好みに落ちていっている教会での若いあなたの若い行動も含めて。」


私は彼が高校生活で、ストレートでAを取らなくてはいけないという強迫観念をもっていることを察した。私が彼の成績を台無しにしたことは明らかだったが、ただ成績の良いのを誇りに卒業するよりも、責任を持って行動することと信頼関係の大切さを理解して欲しかった。私は彼を信じて、Aクラスから落とさないよう、再考する時間をとるため見送った。


6週間後、私とビルはまた向かい合った。その時、卒業までまだ3週間残っていた。ある午後、彼はまた私のもとにきて、ストーン博士と話し合った結果、聖書心理学のクラスをやめたいと言った。ビルが遂に彼の願いに同意する誰かをみつけたことは明らかだった。私はどこで彼を間違わせてしまったのだろうか。彼は私から引き下がったも同然だった。校長からすでに押されているサインとともに。
「ビル、問題は君の記録ではなく人格の問題です。残りの人生に影響がでる取り返しのつかない決定、君の人生に批判される点を作ったことを残念に思うよ。」
彼はものすごい勢いで出て行った。


学校の最後の週は、まるで蜂の巣のように混乱していた。興奮した空気が廊下やクラスに充満していた。高学年のすべての採点が終了し、その成績書は管理事務所にきちんと収まっていた。水曜日、最後のクラスの後、ストーン博士は私の卒業成績書を手に持って、わざわざ私の部屋にやってきた。
「何でしょう?」私は腐ったような卵の匂いをかぎつけた。
「胤森先生・・・」博士は私に優しく話しかけた。
「わかっていると思いますが、どの親も自分達の息子や娘の教育のために人生をつぎ込んでいます。彼等は尊敬と誇りをもって子供達が卒業する日を願っています。また、何人かの生徒は、名声をもたらします。」
私はついに来たとわかった。彼は続けた。
「私や君はビル・シーザーがストレートAで卒業させる為にここにいるということは明らかです。私達は彼の記録にいかなる傷をつけることもできないのです。」
「確かに私は彼の成績にBを与えました。ただ、それは学校の方針に従ってのことです。」私は、本のページを指し示した。
「胤森先生、あなたは私が頼んでいることを理解していない。また、あなたは誰を相手にしているかもわかっていない。」
「私が相手をしている人とはどういう意味ですか。」
「シーザー夫妻は、この地域でとても裕福な人たちで、学校に多大な寄付をしていただいていることを知らないわけではないでしょう。」
「おお、お金のことをいっているのですか。」と私は大きな声で思わず呟いた。
「最後にもう一度だけ、ビルにAを与えるように頼みます。それは彼が卒業に必要なものなのです。私達はBを与えることはできないのです。」
私自身はショックを受けなかったが、ビルがストレートAで高い名声ともに、最優秀として卒業することを思うと、ショックだった。