ミネアポリスの中心部にある私達の神学校は、極端に保守的なバプテスト神学の隔離された要塞として知られていた。教会の教授や指導者に意見することなく、教義への従順が絶対視されていた。二者択一しかないように見え始めたことで私は困惑した。教義に盲目になって彼らに無口に従う羊のようになることを学び始めるか、または彼らの手の届かないはるか高い青空を自由に舞い上がる鷲のように主張するかのどちらかだ。どちらにせよ、高い代償を払うことになることは確かだった。


学部長のワレン・バン・ダストラン博士に対しては言うまでもなく、全生徒は保守主義と教授の精神を支持していた。私はたった1人で、服従するよう要求する彼の権威への挑戦をしていた。どの教授も生徒達に警告をした。
「要塞の中央部に異教徒がいることに警戒しろ。」


時が過ぎて、私は大学顧問のジェームス・マクドナルド博士が私の修士論文を喜んだことに有頂天になっていた。私はたった1人の友達を得たような気がした。ちょうど私が彼の部屋を出ようとした時、廊下から私の名前を叫ぶ声が聞こえてきた。学部長が輝くような笑顔で私に手招きしていた。(彼は何が欲しいのだろう?)と私は自分に問いかけた。


「1、2分時間はあるか? 君の奥さんに申し込みたい重要な頼みがあるのだよ。」
予想もしなかった甘い声の調子だったので、私は憂うつになった。私は彼をまっすぐ見てこう言った。
「もし彼女に頼みたいことがあるなら、彼女に直接話したらどうですか? 彼女はあなたに知的に答えることが出来るでしょう。それから、もし重要な話であるなら、廊下ではなく、あなたの部屋にでも入るべきではないですか?」
私は彼の反応を一瞬待った。学部長は何の感情もなく答えた。
「私は、君の妻が中国人で英語がとても堪能であることを理解している。」
私は彼の態度を好きになれなかった。彼はまるで今私が言ったことを聞く耳を持っていないようだった。
「キム・サム博士の依頼に、君の奥さんはまだ答えていないようなんだよ。だから私は私から君に頼むことにしたんだ。奥さんにキム・サム博士を助ける依頼を承諾するよう薦めてくれよ。」


私がさやに納まるまで少し時間がかかった。韓国人教授のキム・サム博士は、私のように神学の修士取得に一生懸命になっている3人の韓国人学生のために、妻の英語の助けを必要としていた。論文を流暢な英語で書くために、私と同様に彼らが必要としていることは明確だ。妻は私の勉強を手伝うのと同じくらい、彼女自身の修士課程の為にも頑張っている。私が納得がいかないのは、なぜ妻が自分の為に頑張っている時に、彼女のエネルギーや時間を韓国人学生の為に犠牲とさせないといけないのか、なぜ妻に新たな義務や責任を持たせて重荷を負わせなければならないのかということだった。


もし、私が彼の願いに敬意を示さないことに決めたら、彼はどんな権力を使ってくるだろうか。私や妻を越えた大学院の力をもって私を破滅させるだろうか。彼の統率力に従わない抵抗の為に私に仕返しをすることは十分考えられる。しかし最も重要なことは、私は父の教えに逆らっていないだろうかということだった。
「胤森、同郷人を見捨てることを拒否することに決めて、ここで生活できると思うのか?」彼は切り札を出した。
「違う!違う!違う!彼等は同郷ではない。何てことだ!」
彼は私の感情を抜け目なくもて遊んでいる。彼は日本と韓国の文化の多くの違いに常に困惑していた。私を侮辱する目的かどちらかだ。


突然、頭の中で、私は紅葉村で本田のおばあちゃんが私に話をしていた時に戻った。ある日、私達は田んぼの端に自分の短い足をブラブラさせながら座っていた。彼女は歯がほとんどなく、彼女が話すときには私はとても注意して聞かなければならなかった。
「貴ちゃん、天国と地獄ってどんなところだと思う?」
彼女は話を始める時、まっすぐ私を見た。
「2つの世界の違いを教えてあげようか。地獄では人々は神様からもらった丈の長い箸を使ってご飯を食べようとするの。その箸はご飯を救うことができるけれど、口へ運ぶことが難しいの。地獄ではご飯は落ち続け、他人からご飯を盗み続ける限りけんかが起こる。そして彼らの間ではお腹が空いたまま闘いが続くの。そして貴ちゃん、その箸は天国でも地獄でも同じように使わなければならないんだよ。」
彼女は微笑いながら続けた。
「天国ではね、人々はお互いに食べさせてあげているの。もし自分自身で食べようとするとご飯は落ちる。でもお互いに食べさせてあげれば箸は使いやすく、人々はお腹いっぱいになることができるでしょ。」


「胤森!胤森!」私は頭が現実に戻される衝撃を受けた。キム・サム博士が私のすぐ前に立っていた。彼のニンニクの口臭が私を打ちのめした。意外にも、私は学部長とキム・サム博士による機会を妻と相談もせずに受け入れた。ああ、これは長い箸の話か! 私は天国を見上げた。