私達を護送してきた2人の警官は、分厚い書類の束にサインするや否やくるりと背を向けて、無表情の医師とともにゲートへと向かっていった。そしてすぐに、白衣を着た私の3倍くらい大きな筋肉質の男2人が手錠をかけられた患者に近づき、数人の医師に付き添われながら、得体の知れない建物の中に消えていった。私もあの建物に連れ込まれるのだろうか。再び不安と恐怖が私を包み込み、深い洞窟の中に放り込まれたような気分になった。


私はそこのボスと思われる、大きくて頭のはげた医師の元に運ばれた。彼が顎を触るのを合図に、何人かの医師が私の周りに集まり、あの白衣を着た大男2人が私の腕を両側で掴んだ。私の足は宙に浮いてぶらぶらとしていた。私達はこのボスに従い、他の医師や看護婦たちはまるでロボットのように後ろからついてきた。いくつもの2重ドアを通り、彼らは素早く私を連れて行った。私たちが最後のドアを通った時、書類にサインされ、私は待ち受けていた別のグループに引き渡された。


私は息つく暇もなく、ある部屋に連れて行かれた。その部屋には家具がほとんどなく、しかもすべて床に固定されていた。1人の男がスイッチを入れると、その小さな部屋は突然かまどのように熱くなった。彼らは私の服を脱がせ、看護婦は私の服や靴や小さな鞄の中身を調べてリストに書き出していた。私は裸のまま、色々な方向に向かせたり回転させたりされながら、ジロジロと何回も調べられた。彼らは皆、ゴム手袋とマスクを身につけ、目を除いてすっぽりと顔を覆っていた。それから私はシャワー室に案内され、皮膚がはがれて赤くなるほど、取っ手のついたブラシでゴシゴシ洗われた。お湯も驚くほど熱かった。まるで死刑前に五右衛門風呂に入っているようだった。その後ガウンが与えられたが、その下に下着を着ることは許されなかった。看護婦が馬に餌を与えるように、私に錠剤を与えた。


次に私が覚えているのは、ぼんやりした頭で別の明るい部屋に入れられたことだった。その部屋は目を開けていられないほど眩しく、ヒロシマを思い出させた。石像のような顔をした医師が列をなして入ってきては出て行き、また次のグループが入ってきては去っていった。それが何時間も続く頃には私はすっかり消耗し、叫びたい気分になった。


私への実験と医学療法を指揮しているはげ頭でいじめっ子のような風貌のボスは、ヘンリー・ギャッロップ博士という男だった。彼は、ヒロシマで生き残った私が被爆で苦しんでいるのだろうと思っているようだった。そう思うと、虫唾が走った。


昼も夜もなく実験が続き、何日、何週間たったのかわからなかった。私はただ混乱の中にいた。1ヶ月後、別の病棟に移され、私はアメリカ人の中年看護婦、メアリー・ヒュールの管理下に置かれていた。彼女はその精神科病棟の婦長だった。私は他の患者から離され、常にヘンリー・ギャロップ博士に監視されていた。私は外の世界で今何が起きているかわからなかった。高い壁の小さな窓から外を眺めようとしたが、鉄格子に阻まれていた。ドアの内側には取っ手がなく、自分から開けることはできなかった。