誇りを守るために名を汚すことになった痛みは私には耐えがたかった。熱い溶岩のように私のお腹は爆発し、胸は幾千にも引き裂かれた。追い詰められた私は、胤森の名を晴らす唯一の方法、無実を証明する唯一の方法を決めた。自ら命を絶とうと。父はこのことを臆病なことと見なしはしないだろうか、そのことだけが気がかりだった。父が理解してくれることを祈った。私はもはやこれ以上この世界にとどまることはできない。


心を決めると、不思議に穏やかになった。いかに自殺したらよいかを考えながら、私はいくつかの選択肢があることに気づいた。首吊りは苦しい死に方だ。線路に身を投げるのは、引かれた後が何ともグロテスクだ。一番よい方法は、寝ている間に事が済む死に方だ。


次の日曜日、私は次々と薬局へ行って睡眠薬を買った。最終的に十分と思われる100錠もの錠剤を手に入れた。その夜、私は父宛に遺書を書いた。なぜ奥さんを巻き込まなかったのか、なぜ無実を主張し切れなかったのかを理解してくれるよう頼み、最後にこう書いた。
「お父さん、どうか私の決定を尊重し、受け止めて下さい。私はこのことがお父さんやお母さん、そして姉さんの心に問題を引き起こさないことを願っています。もうすぐお父さんの下に参ります。その時は両手を広げて迎えて下さい。お父さんに会えるのを切望しています。   貴士」


2通目の手紙を主人に書いた。手紙の中で私は無実を主張した。そして2つの手紙を枕の下に置いた。私は風呂に入って白装束を着た。自分の身の潔白を示すために。左の袖には小さな丸い鏡を入れておいた。天照大神の精神を反射し、私を導いてくれるよう頼むために。右袖には、私の道を邪魔するかもしれないいかなる悪の精神も撃退できるようにかみそり刃を入れた。帯の中には、波止場まで私を連れて行ってくれる渡し人のためにお金を入れた。


準備が完全に整うと、私は睡眠薬を何杯もの水で飲み始めた。喉につまらせながらも私はすべてを飲み込もうと決意した。そして深い満足感とともに、未知の旅路についた。寺の鐘の音が響き渡り、真夜中の時を告げていた。その音は私の心の痛みを強調した。仲村先生と奥さんの温かみを抱きしめながら、彼女らに別れを告げた。次に目覚めた時は向こう岸にいるはずだった。


誰かが私の手を引いていた。周りには誰かがいるようだが、すべてがもやもやとして見分けがつかない。一つの影が私に近づいてきた。それに向かって歩いていくと、暗いトンネルに続く道に出た。私は怖くなって戻ろうとしたが、突然暗く曲がりくねった道に吸い込まれた。下に向かってらせん状に落ちていく間、私は「うわーっ!」と叫び続けた。私の声は壁に反射し、落下のスピードが増すとともに延々とこだました。私はまるで、子宮に戻るように吸い込まれていく赤ん坊のようだった。落下が終わると、果てしなく続く暗い道を経てようやく静かなところに落ち着いた。私がそこで待っていると、動かない、暗い何かが、明るくなり始めた。私は自分が奈落の底に通じる断崖絶壁に立っていることに気づき驚いた。谷の反対側はこれまで見たこともないような美しい園が広がっていた。私は本能的にそこが天国であることを感じ取った。ちょうどその時、声が聞こえた。
「お前の番じゃない。」
左の方を見ると、天使のような姿の人が草の扉を開けているのが目に入った。抵抗できない力が私を引きずり出し、私の前でその扉は固く閉められた。もはやその園を見ることはできなかった。