お歳暮の季節になり、質屋はお金を必要とする人たちがやってきてとても忙しい時期となった。主人は私が足を踏み外すのを今か今かと常に目を光らせていた。ある日曜日、主人は娘と祖母を訪ねて留守だった。私は奥さんの部屋に向かい、障子越しに赤ん坊のおもりを申し出た。彼女が障子をそっと開けると、赤ん坊だけでなく奥さんもまた泣いている姿が目に入った。彼女は疲れきった様子だった。
「奥さん、どうしたのですか?」
私は尋ねた。彼女は私に手紙を渡した。それは青森の彼女の両親からの手紙で、年末年始にやってこないかというものだった。
「奥さん、すばらしいことじゃないですか。これでご両親も初めてお孫さんを抱けますね。」
「いいえ、胤森さん。私にはお金がないのよ。」
彼女は打ちひしがれたように首を横に振りながら答えた。彼女は両親へのお歳暮と実家に帰るための切符を買うためにどうしたらいいか、眠れない夜を過ごしていると打ち明けた。夫である主人は彼女に何一つ与えていなかった。いったいどうして主人はこんなに不親切なのだろうか。妻の気持ちを汲み取ろうとしないのだろうか。私は何とかしてあげたかった。でもどうやって?


突然、私はあの革靴を買うためにずっと貯めていたお金のことを思い出した。1年間、外に出ることもなく節約できるすべての小銭をとっておいたのだ。すべてはあの靴を買うために。本当にこの夢を捨てることができるだろうか。飢え死んでもこのお金には手をつけないと誓っていたのに。どうしたらよいか頭を悩ませていると、父の教えが頭に浮かんだ。「自大優先」−より高い倫理目的のために目の前の必要を犠牲にすること、「自他共栄」−他人の役に立つように生きること。


私の考えは決まった。無我夢中で自分の部屋に走っていくと、貯めていたお金が入っているボロボロの古い靴箱を持ってきた。
「奥さん、どうかこれを旅費に使ってください。」
彼女は即座に私の申し出を断った。
「あなたからのお金で問題を解決するつもりはないの。私はあなたに、あなたが私とこの子にとってどれだけ大切な存在であるか知ってほしいだけよ。だから、胤森さん、靴のお金は受け取れないわ。これはやってはいけないこと・・・。」
「僕はこれを受け取ってほしいのです。僕から奥さんへの贈り物です。十分でないことはわかっていますが、でも、僕の気持ちです。僕だってどれだけ奥さんと赤ん坊のことを気遣っているか知ってほしい。」
彼女は私の顔をじっと見て、私の言ったことを誠実に受け止めてくれた。彼女は涙の間から微笑み、感謝を込めて私の手を握った。私達は指切りをした。いつの日かお互い、夢をかなえようと。奥さんは私の心を受け入れてくれた。涙が彼女の目を輝かせ、、まるで宝石のようだった。そして彼女は興奮気味に言った。
「胤森さん、私、素晴らしい考えを思いついたわ。今すぐお店へ行って、あなたの靴を買いましょう。その後お金が手元に残ったら、旅費として私が頂くことにするわ。」
彼女はみるみる笑顔になった。


まるで宙を舞っているかのような気分で、私は新しく買った靴を履いて帰った。厚底の靴を履くとずいぶんと背が高くなったような感じで、ハンサムな紳士になったようだった。私はケーキも食べた。地球全体が私の幸福感で揺れているほどだった。奥さんは微笑みながら低くお辞儀をして、残りのお金を受け取った。その夜、私はその靴を布団の中に入れて温めた。興奮してほとんど眠ることができなかった。私はもう17歳の小僧じゃなかった。あの革靴を手に入れたのだから。