2ヶ月近く経って、私は仲村先生と高田駅で会っていた。私達は七夕祭りに行こうと計画していたのだ。天の川の岸で年に一回会えるという牽牛と織女。七夕祭りは向原で開かれていた。向原は広島と三次をつなぐ芸備線沿いの大きな町だ。誰も私達についてこないことがわかると、私の鼓動は早くなった。汽車が線路を走り出すと、私と先生はボックス席の窓の近くに向き合って座った。私はほとんどくっついたお互いの膝の温かさを感じた。彼女はまるでこの秘密の旅が良いことで、正しいことのように微笑んだ。勇気を振り絞って彼女の目を見ようとした時、電気の火花が私達の間で交わされているようだった。彼女の目は花火のように輝き、透明な瞳の奥から火花がチラチラしているようだ。沈黙が流れる中、彼女は2人の時は名前で呼んでもいいかと尋ねた。私は驚き、息つく暇もなくうなずいた。彼女は私の手を自分の膝の上に乗せ、私の目をもっと深くまで見つめた。
「貴士くん・・・。」
彼女の柔らかなささやきは、私の心の奥深くの何かを解き放つ道しるべのようだった。彼女の鼓動を感じると、抑え切れないほどの感情が湧き上がり、また湧き上がっては私を襲った。まるでめまいを起こして全てが回っているようだった。


向原に着くと、私達は手をつないで坂道を下っていった。私達を知る者はおらず、裁く者も非難する者もいなかった。神社に上っていくと、笛や太鼓の音色が祭りの人ごみのおしゃべりの中から聞こえてきた。焼き鳥を焼く匂いが漂うと、仲村先生は焼き鳥を買ってきてくれた。私達はお互いに一口ずつ交換をしながら食べた。それから私達は林の中にそれていき、人目のつかない所を探した。彼女は大きな松の木を見つけ、それを背に寄りかかった。私は彼女そっと押し、自分の腕を腰に回した。驚いたことに、彼女は私を胸に抱きしめた。薄いブラウスを通して、彼女の胸は深い息とともに上がったり下がったりしていた。彼女は26歳、私はたったの15歳だったが、私達はこうして我を忘れるような愛の世界に入り込んだ。苦しんだ過去や、不確かな未来も忘れて・・・。この上ない喜びの中にいた時、私は「貴士くん」と、ささやく温かな息を感じた。
「先生!」涙が目にしみながらも私は答えた。永遠に続くように思われた時が過ぎ、私達はとうとう別れた。小指をからませ指きりをし、また会うことを約束した。


1年前の高田中学校での弁論大会で初めて出会ってから、仲村先生と私は秘密の約束を重ね、優しく深い愛を育んでいた。私達の関係はかけがえのないものとなった。生徒と先生、しかも年上の女性教師と私のような男子生徒のこのような関係は許されるものではなかった。しかしその後数ヶ月間、誰も私達を怪しむ者はいなかった。先生と私は村人の目から離れた場所でつかの間の密会を重ねていた。私達の秘密は守られていた。先生はこれらの危険にもかかわらず私の側にいてくれた。彼女の強さが、私の恥ずべき過ちも暗い感情さえも信じてくれる助けとなり、私は彼女の愛を受けるに足る人でいられた。