spi0208152005-02-25


私が大人たちに囲まれて校庭に立っている時、やわらかく軽快な声で私の名前を呼ぶのが聞こえた。振り返ると、不機嫌な大人たちから2、3歩離れたところに美しい女性が立っているのが見えた。彼女は息を呑むくらいの美人だった。彼女の暖かさと親近感が広がり、私は困惑して赤くなってお辞儀をした。
「突然でごめんなさいね。胤森くん?」
彼女は確信を持ったように尋ねた。私は思わず言葉を呑み込んでしまった。
「は、はい。あなたはどなたですか? 名前をお聞きしてもいいですか?」
彼女はまるで母親が愛するわが子を見るように、底知れない優しさで私を見た。しばらくの間、私は彼女を天使だと思っていた。ゆっくりお辞儀をした彼女は、高田中学校の教師で、仲村というものだと自己紹介した。
「少し歩きませんか?」
彼女がそう言ってくれたので、私は解放された気がした。小道を歩いていると、私の感覚は突然息を吹き返した。桜の季節の真っ只中、花の香りがほのかに漂う繊細な空気、そして隣にいる若く美しい女性、それらすべてが私の頭をクラクラさせた。黒松の木の前で止まると、その太い幹が不機嫌な大人たちの目から私たちを守ってくれた。彼女は私の方を向くと私の目を深く見つめ、私の手を優しく取るとその手を自分の手の中へ引き寄せた。私はこの素敵な女性との触れ合いに震えた。優しいそよ風が彼女の絹のような黒髪をなびかせるのを見て、私はただうっとりして、彼女の曲線美に催眠術をかけられてしまった。私の心は、彼女のはにかんだ瞳の輝き、繊細なしぐさ、感情のこもった触れ合いに完全に虜になってしまった。


蜂の羽音で、彼女の幻想から現実に戻った。何故彼女、つまり先生は、あえて生徒の私に一人で話しかけたのだろう。私の気持ちを察したかのように、彼女は私のメッセージが彼女の生徒の何人かの助けになるに違いないと言った。彼女が言おうとしたことを理解する前に、村田先生に言われて私を呼びに来た生徒が私達をさえぎった。もう行かなければならない時間だった。


彼女はもう一度私の手を取った。私も彼女の瞳をもう一度見つめた。その瞳は、理解と悲しみと平和をちりばめた宝石のように光り輝いていた。私は桜のように優しく自分の心が開いていくのを感じた。その時私は15歳であり、初めての経験だった。彼女はまた別の機会を作って私に会うことを約束してくれた。
「先生、ありがとう。さようなら、先生。さようなら。」


学校へ戻るバスに揺られながら、私はたったこの2、3時間の間に起こった出来事を思い出していた。仲村先生に出会ったことは、私の人生に光がやって来たということだった。暗い屋根裏に一筋の光が差し込むように、私の魂の奥深くを突き刺した。彼女が、生徒たちの助けとなるにふさわしい人物として私を選んだことが信じられなかった。私の価値が認められたのだ。