5年生の私は、貧富の差が広がってきたことに気づいた。「すべてにとってより大きく良いことのために自分自身を捧げること、他のものの為に自分の人生を送ること」という父の教えは、私の良心に大きな矛盾を引き起こした。村人たちは、私を独りにさせて容易に生きられないよう企てていた。胤森が断崖絶壁の縁に追い込まれたことを知り、喜んでいるように見えた。村の指導者に従い、意のままに動くような人々には食べ物が与えられ、反抗的な態度のままの私には容赦なく何も与えられなかった。


毎月3日にお経を上げに来ていた一人の坊さんが、特に私の怒りを引き起こした。その坊さんは太っていて狸のようだったので、私は彼のことを古狸と呼んだ。姉たちは古狸が来るごとに、お金とお供えの野菜などを差し出していた。私はそれを見てぞっとした。飢えた子供たちの口から食べ物を奪っておいて、どうして彼は坊さんになることが出来たのか。私はもうまっぴらだった。古狸がお供えでいっぱいになった袋の重みで息を切らせながら家の戸口に現れた時、私は感情が爆発した。
「佐津子姉ちゃん! 雑草を食べている僕たちが、どうしてこの太っているお坊さんにあげなければならないんだ? 僕たちはいつもお腹がペコペコじゃないか?」
私の無礼な行動に驚いて、彼女は私の顔に平手打ちを食らわせた。
「お坊さんに差し出すことは、私の努めです!」
と、猛烈に言い返し、私をにらみつけた。
「お前は口出しするんじゃない。私たちは生き残るために我慢しなくてはならないんだ。もしお父さんの代わりにお前が死んでくれていたなら、どんなによかったか。何が胤森にとって一番いいかは私が決める!」
「食べ物がないっていうのに、それが一番いい方法だってどうして信じることができるんだ? 姉ちゃんのあかぎれた手を見てみろよ。薬を買うお金すらないじゃないか。」
その言葉は、彼女をさらに激怒させた。
「よくもそんなことを言う勇気があるもんだね。私はお前たちが生き残るために働いているんだよ。」
振り向くと、私たちの争いなどどうでもいいように、平然と座った古狸がいた。私は感情を抑えきれず、大声で彼に言った。
「あんたはくそ坊主だ! 人間のくずだ! それでも私の姉にお供え物を要求するとは、いったいどんな坊主なんだ?」
彼が答える前に、佐津子は彼の前に身を投げた。
「どうか弟の愚かさをお許し下さい。どうか、両親の霊魂の苦しみが終わるよう、お経を上げて下さい。」
「苦しみ? 何のことを言ってるんだ?」
私はつぶやいた。彼女の全身は抑えきれずに震えていた。私は優しく尋ねた。
「私たちの両親が苦しんでいるとは、どういうことなの? この坊さんがお経を上げたところで、お父さんとお母さんが苦しみから逃れることが出来るとは、どうしても信じられない。」
「よくもお坊さんに向かってそんなことが言えたもんだ。お坊さんに対するお前の態度が、両親が断末魔に苦しむことになるという、十分な理由だ。私は両親に奈落の底に落ちてほしくないの! 貴士、慎みなさい!」
彼女はお辞儀をし、私の魂が永遠に呪われる前に、許しを仏に求めるよう私に言った。それでも私は大声で叫び続けた。
「詐欺師、ここから出て行け! お父さんとお母さんの死は避けられなかったんだ。彼らは地獄にはいない。あんたのお経は、ブンブン言う蚊を追い払う力もないさ。」
古狸が立ち上がって去ろうとしたので、彼女はお金の入った封筒を彼に手渡した。彼はそれを袋に詰め込んで、すでに膨らみすぎて縫い目が裂けていることを心配しながら、急いで帰っていった。私はお清めに高価な塩をどさっと投げた。


この出来事以来、私は彼が来た時はいつでも家の外でおとなしく待ち、二度と彼の訪問を邪魔しなかった。それは一見私が心を入れ替えたように見えたかもしれなかったが、依然として私の心は煮え立っていた。