夕食後、先生と私は廊下の外の玄関口に腰をかけて足をブラブラさせながら、光輝く星たちを見ていた。キラキラしている様子は、まるで星たちが会話をしているようだった。
「先生見て! 流れ星!!」
「貴士くん、向こうのあの明るい星を見てご覧なさい。あの星はあなたのお父さんで、いつも貴士くんのことを見守ってくれているんだと思うわ。」
と、先生は言ってくれた。それから違う星を指して、
「そしてあれがお母さんで、その他の全部の星があなたを応援しているわ。」
と。私は先生にくっついてもたれかかった。
「先生、僕は大きくなったら、きっと先生みたいになるからね。大きくて強くて、先生が僕のことを誇りに思えるようになってみせるからね。」
と言い、私たちはよく冷えたスイカを一切れ食べた。
「先生、僕がどれだけ遠くに種を飛ばしたか、見た?」
私は無邪気な子供の心を取り戻し、はしゃいでいた。


自分のために布団を用意してもらったのは、もう2年以上も前のことだった。
「さあ貴士くん、すべてを忘れてぐっすり眠るのよ。先生はあなたにすべてを忘れてもらいたいの。自分の心を見失わないようにね。」
先生はそう言うと、もう一度私を胸に抱いてくれた。そして、私を雲のように軽くてふわふわした厚い掛け布団の中に入れてくれた。それは姉妹や弟たちと分け合わねばならない薄い毛布とゴツゴツした布団に比べると、天国のようだった。
「先生は隣の部屋にいるから心配しないでね。いい夢を見るのよ。」
先生はそう言って部屋から出て行った。


お腹がいっぱいの状態で布団に入るのは初めてだった。私は先生が起こしに来てくれるまでぐっすりと眠った。朝日がより明るい日を約束するかのように、大きな微笑を投げかけていた。朝食後、先生は家族のためにと3kgの米袋を渡してくれた。そして私を家へと送り出してくれた。私の心はとても軽く、ウサギのように飛び跳ねたりスキップしたりしていた。


小さい丘にさしかかった時、学校でいつも私をいじめる少年たちのグループにバッタリ出会ってしまった。
「まるでお前は子犬みたいだな。それで先生は何をしてくれたんだ? お母さんのように、息苦しいくらいに抱きしめてくれたのか? ハハハ・・・全く笑わせるぜ!」
私が先生の注意を引いたことをねたんで、彼らは私を先生の子犬だとばかにしたのだ。
「先生から何をもらったのか見せてみろ!」
私は本能的に、米袋を腕の下にしっかりと握りしめた。彼らの1人が私のお腹と顔を数回殴り、別の者は私を蹴った。大将は米袋をつかもうとした。私には彼らに対して何もなすすべがないことは分かっていた。しかし、私の宝物を盗むという満足感を与えることだけは我慢ならなかった。
「嫌だ! 俺から離れろ! お前たちにこの米は絶対渡さない!」
私は涙を流しながら袋を引き裂き、散らばった米を地面に踏みつけた。
「あいつはキチガイだ! 退散だ!」
大将は怯えたように叫んだ。一頭の牛がフェンス越しにこの屈辱的な場面を見ていた。彼らは立ち去る時に、私に唾を吐きかけていった。彼らの姿が見えなくなるまで、私は荒れ狂って彼らを呪う言葉を吐き続けていた。そして自分でも怖いと思うほどヒステリックでキチガイじみた笑いに変わった。


家に帰ると、早都子は私のあざや傷を見て何をしたのかと尋ねた。私は嘘をついて、
「ああ、寺の長い階段から落ちたんだ。」と言った。
「何ですって? 貴士がお寺に行ったって? 理由もなくお寺に立ち寄るなんて、本気で言ってるの? 貴士はお寺なんか行ったことないじゃない。」
姉は私の気が確かなのか問い詰めた。


私は橋本先生にはこの襲撃のことは決して言わなかった。言うと先生はいじめた子供たちを叱責し、それが更なる自分への攻撃につながることが分かっていたからだ。断固として私は怒りをぐっと飲み込み、誰にも何も言わなかった。