ある日、2人の医師が長い廊下へと私を案内した。そしてある部屋へと通された。そこには見たこともない黒いガウンを着た男がいた。後になって、この男がカリフォルニア州スタニスラウ郡地区の判事だとわかった。判事は長いテーブルにつき、その周りに7人の医師が静かに座っていた。メアリーはソーシャルワーカージーン・ホワイト女史と共に別のテーブルについていた。私はそのテーブルの端に座り、2人の医師が私の近くで見張っていた。この会合が始まる前、メアリーが私の側にやってきて囁いた。
「トミー、心配しないで。私が側にいるわ。」
私には、彼女がそう言ったように聞こえた。彼女の目には何か切迫したものが感じられた。再びホワイト女史の隣の席に着く前に、彼女は私の手を優しく握った。私は彼女が絶えずそこにいてくれると分かり、会合の間、正気を保っていられた。


私はなぜ医師が全員そろったこの部屋に連れてこられたのだろうか。訳の分からない議論が白熱する中で、私は皆が私のことをどうするか話し合って決めているのだと感じ取っていた。医師がそれぞれ順番に、自分の鑑定結果と判断を述べていた。ギャロップ博士が他の医師に、自分の意見を支持するよう訴えていた。彼は、もっと時間があれば理想的な実験が行えるだろう、そんなことを言っていた。全員が2、3回、新たな実験を求める博士に対して、賛成意見や反対意見を述べた。議論が行われている間、判事は静かに座っていた。おそらくメモを取っていたのだろう。ソーシャルワーカーが簡潔に話す機会を与えられ、最後にメアリーの番がやってきた。彼女が話したことは全部は分からなかったが、涙を流しながら私の名前を口にしたのが何回か聞こえた。それから、メアリー以外の全員が別の部屋へ移動した。


彼らが戻ってくるのを待っている間、時間が止まってしまったかのようだった。メアリーが私のためにしてくれたことは、明らかにギャロップ博士の権威とリーダーシップに反対することだったのだ。メアリーのせいで、広島の原爆がいかに人体へ影響を与えたかを研究する専門医になり損ねた博士が、どんなにメアリーのことを憎々しく思っていたか、私には想像もつかなかった。


7人の医師全員が着席し、判事が戻ってくるのを皆待っていた。メアリーが私の隣に座り、私の手をしっかりと握った。判事が記録を手に戻ってきて、ついにその瞬間がやってきた。突然、その場が不可思議な空気に包まれた。判事は静かに着席し、無言でノートのページをめくった。評決を緊張して待っている医師の呼吸する音が聞こえてくるようだった。そして、判事が静かな太い声で評決の根拠を詳しく述べ始めた。判事の言葉はほとんど聞き取れなかったが、彼は明らかに、私が放り込まれた様々な病院について語っていた。また、ホワイト女史とメアリー・ヒュールの名も聞こえた。


メアリーが汗ばんだ手で、私の手を握りしめた。そして、呼吸が乱れ始めた。しばらくして、判事が私とメアリーに起立するよう命令した。私はギャロップ博士を見下ろした。彼の表情があまりにも張り詰めていたので、私は彼が突然怒り出すのではないかと恐れた。そして、緊迫した瞬間がやってきた。判事は、私の利益になるようにというメアリーの主張を認め、何人かの医師から歓声が沸きあがった。
「トミー、おうちに帰れるわ。」
私は彼女の言葉の意味がわかった。私は病院から解放されて、私の新しい“守護天使”となったメアリーの保護下に置かれることになった。


その週の金曜日、メアリーと私は病院の正面玄関から堂々と外の世界へと出て行った。私の魂が白い蝶になって、風の中で自由に飛び回り、ダンスをしているかのように感じられた。決して後ろを振り返ったり、引き返しはしないだろう。私が取り戻した人生がどんなに貴重なものかを、その時私は気づいた。敵は私から人生を取り上げるほどの力を持ってはいなかった。メアリーの愛の癒す力、力強い人間の精神、そして私の魂の中にある征服しがたい力の方が強かったのだ。


1人のアメリカ人看護婦、メアリー。かつて敵だと見なしていた彼女が、私の魂と人生を救ってくれた。私に“愛されている”という感覚を取り戻させてくれた。メアリーと過ごした体験は、私をあやしてくれた母の腕の中にいるようだった。その体験が私の人生を救い、私を正気に保ってくれていたのだった。彼女は天使か、それとも聖母マリアなのか。


メアリーの無条件の愛が、結果的に、私にイエスと彼の教えである神の愛と赦しへと導いた。イエスのメッセージは、干からびていた私の心に優しい雨となって降り注いだ。それが私を前に進ませ、別の道を模索させてくれた。私は初めて希望を見出した。これが私の長い魂の道のりである“復讐から赦しへ、そして平和への道へ”の第一歩だったとは、その時は誰も知る由もなかった。